大丈夫、いつだって思い出せるよ

specialの続き、ふたりの会話

何度も何度もキスして、涙の波がおさまったころ、手を繋いでまた歩き始めた。
吹き抜ける風が街路樹の葉をカサカサと揺らしている。寂しいその音を、ふたり並んで聞いた。


「……あのさ、」
「うん?」
「時々さ、またいつか今日のこと思い出すんだろうなって思うことって、あるじゃん」
「……うん、あるね」
「たぶんさっきのことも、そうなんだろうなって思ってさ」
「……うん」
「#name#ちゃんが言ってくれたこと思い出して、おれは大丈夫だって思う時がまた来るんだろうなって」
繋いだ手に、自然と力がこもる。
「今までもさ、ひとりだったら多分だめだったことも、そういう記憶に助けてもらってたんだよなあって」
「……うん」
「もらった言葉とか思い出とか、全部忘れずにいられたら、怖いことも減ってくんだろうなって思う。……おれ、弱いし」
「……悠仁くん、なんでそんな泣かせるようなことばっかり言うの」
「はは、……ごめん、そんなつもりじゃなかったんよ」
困ったように笑う彼女の目尻がきらきらと光って、それがすごくかわいかった。指の腹でそっと、溢れる雫をぬぐう。ぽろぽろと溢れて止まらない、それが嬉しかった。
「……何もかも全部覚えとくにはさ、どうしたらいいんだろうな」
「うーん……忘れちゃっても、いいんじゃないかな」
「え、なんで?」
「本当の意味で記憶が完全に消えちゃうことって、ないんだって。ただ思い出せないだけ。本当に必要なときがきたら、記憶の引き出しが開くんだって、聞いたことあるよ」
「……そっか」
「だから、悠仁くんにとって必要なとき、ちゃんと思い出せる」
「……おれにとって#name#ちゃんの記憶、いつでも必要なんだけどな」
そう言うと、彼女はやさしく笑った。
「いつも隣りにいるよ」
おさまっていたはずのそれが、またせり上がってくる。今日何度目だろう。
「あー……、もう、ストップ。今日だめな日だわ」
「ふふ、わたしたち、泣き虫だね」
「……泣いたら外でもキスしていいんだっけ?」
冗談で言ってみたら、彼女は泣きながら笑って、頷いてくれた。
「……好きだよ。すげー好き。大好き」
キスは涙の味がする。しょっぱくて、あまくて、切ない。この感触も、重なる体温のあたたかさも、彼女のまつげを光らせる雫の美しさも、すべて、またいつか思い出すんだろう。
そしていつかの俺は、それに救われるんだろう。

2026-10-13