熱帯夜

夏の夜。
クーラーをつけていても、ふたりでくっついて寝るとどうしたって暑い。蒸し暑さと寝苦しさに目が覚める。すぐそばで眠っている彼女を確認して安心して、その寝顔をしばらく見つめていた。長いまつ毛、かわいい唇、小さな寝息もいとおしい。
「……ん、……」
腕の中で、彼女が寝言を言いながら身体をずらそうとする。うっすら汗で張り付いた前髪を、起こさないようにそっと整えた。そうしているうちに、彼女の瞼がゆっくりと開く。
「……悠仁くん、」
「ん?どした」
「……あつ、い」
「うん、あちいな」
「……ちょっとだけ、」
「だーめ」
離れようとする身体をぎゅっと抱き寄せて、腰のあたりを腕でがっちりと捕まえる。汗ばんだ肌同士がぴったりくっついて、余計に熱くなる。わかってる。でも、離したくなかった。
「……離れんで、やだ」
「でも、あついよ……」
「ん、でもかわいいから」
理由になってない。それはわかってる。お互いに熱くなったおでこをそっとくっつけた。汗の匂いとシャンプーの匂いが混ざる。なんというか、夏の夜の匂いだ。
「…おれもあちい」
「ん、…ね、ちょっと離れよ」
「やだって」
また離れて行こうとする腰を、改めて引き寄せる。柔らかいところが当たって、余計に体温が上がる。体温というか、なんというか。色々余計なものもたちあがってくる。
「……ん、」
「なんか…余計熱くなるな……」
「……悠仁くん、?」
「……夜更かししたくなってきた」
耳元でそっと囁くと、彼女は小さく震えて顔を赤くした。今何時だろう。たぶん夜中の2時くらいか。寝起きでふわふわとした彼女のかわいさと、やさしく安心する匂いで目は冴え始めている。明日、休みだし。デートの予定は朝早いけど、きっと起きれる。そうやって自分に言い訳する。
「……ね、悠仁くん、当たってる、の」
「うん、わざと。…ごめん、我慢できんかも」
「……だめ、明日も朝……」
「わかってる。でも、だめ」
彼女を諭すたび、汗で少し湿ったTシャツ越しに感じる体温がどんどん高くなっていく。熱いのは俺なのか彼女の方なのか、もう混ざり合っていてわからない。太ももが触れて、腰が当たって、やわらかい胸が、当たる。好きが、止まらない。完全に勃ってしまったそれをぐりぐりと押し付けると、彼女は観念したように顔を上げてくれた。
「……ほんとに、夜更かし、するの……?」
「する」
「……悠仁くんのばか……」
「うん、ばかでいいよ。ごめんな」
吐息が当たる距離で見つめると、彼女は視線を逸らさずにじっと見返してくれる。かわいい。本当にかわいい。カーテンの隙間から漏れる、月明かりと街灯の光。うっすらと照らされる彼女の表情は少し不安げで、瞳は潤んでいた。かわいい。
「かわいすぎるから、…ごめん」
「……ばか……」
「うん、全部おれのせいにしていいよ。…だから、好きにさせて」
小さく笑って、おでこを合わせてからキスを落とす。ごめんな、許してほしい。夜の静かな部屋に、クーラーの風音と、汗ばんだ肌の擦れる音だけが響く。
「……悠仁くん、さっきよりあつい……」
「ん、…そう?そうかも」
「……ん、っ……」
暑くて熱くて、どうしようもなくて、でもそれが心地いい。額から汗が落ちて、彼女の首筋を光らせる。彼女は少しだけびくっとして、でも拒みはしなくて、細い腕で俺の背中を抱きしめてくれる。気持ちよくてしあわせで、どんどん欲しくなってしまう。
「あー……やっぱ、夜更かししてよかった……」
「……まだしてないよ」
「これからするんよ」
「…もう」
夏の夜の匂いと熱気の中で、彼女の体温を感じながら、何度も「好き」と囁く。
「……かわいい」
「……ま、また言ってる」
「だって、ほんとにかわいいんよ」
何度も何度も、でも苦しくならないように、そっとキスを落とす。
「かわいい、ほんとに、かわいい」
「……うん、…恥ずかしいよ」
「ごめん、でも言わせて」
おでこを合わせたまま、何度も何度も伝えたくなってしまう。伝えるたびに、口にするたびに、自分の体温がどんどん上がっていく。このままどうなるんだろう。どんどん熱くなって、二人で溶けて混ざり合うのがいい。そうすればもう、離れ離れにならなくてすむ。それは口には出さなかったけれど、たぶん伝わっていたと思う。

汗と吐息が混じり合う夜。朝焼けが差し込むまで、溶けるようにその体温を交換した。

2026-05-14