彼女が俺の服着て寝てた

3日間の出張を終えて、ギリギリ東京行きの新幹線に飛び乗った。
「……あっぶねえ」
それは東京に向かう最終電車。シートに身体を預け、ため息を吐く。すぐに到着時間を彼女に連絡した。日付が変わるまでには帰れそうだけれど、彼女は起きていられるだろうか。
『悠仁くんに会えるまでずっとここで話してたい』
そんなかわいいメッセージが来て思わず笑ってしまったのもつかの間、そのまま少しだけやりとりを続けたら、ぱたっと返信が来なくなった。今日も忙しかったと言っていたから、きっと寝落ちてしまったんだろう。寂しいけど、でも今日はやっと会えるから。
車窓の景色を少しだけ眺めて、そのまま目を閉じた。

◇


「ただいま」
玄関を開けると、リビングの明かりが廊下にそっとオレンジ色に漏れ出ている。それだけで、なんだかほっとする。でも、いつものように出迎えてくれる彼女はいない。
やっぱり、寝てんのかな。
そっとドアを開けてリビングに入ると、予想通り彼女はソファーでスマートフォンを握りしめながら寝ていた。
「……かわいい」
すやすやと寝息を立てて眠る彼女。音を立てないように隣に腰掛けて、指の腹でその白い頬を撫でる。滑らかですべすべで、心地良い。それだけで、出張の疲れが嘘のように溶けていく。数日間会えなかっただけなのに、なんだか懐かしくて胸がドキドキして、その目を見て話がしたいと思うのに、でもこのままゆっくり休んでほしい気もして起こせない。だからしばらく、その天使みたいな寝顔をじっと見つめていた。長いまつ毛が、まぶたの上で小さな影を作っている。綺麗な鼻筋に、少しだけ開いたピンク色でやわらかそうな唇。まつ毛の生え際にそっとキスすると、彼女はくすぐったそうに少しだけ鼻を鳴らした。かわいい。どれだけ見つめても飽きない。
「……ん?」
あまりにも顔を見つめすぎて、今さら気がついた。これ、俺の服?
彼女が着ているグレーのスウェットは、確かに俺が普段部屋着として着ているものだった。なんで、と一瞬考えて、それに気がついたらもう跳ねる心臓が止まらなくなってしまった。その理由を想像して、それがあまりにもかわいくて。思わず上からぎゅっと抱きしめる。案の定、彼女は起きてしまった。
「……ん、ゆ、…うじくん…?」
「ただいま、遅くなってごめんな」
寝ぼけ眼のまま、彼女はふんわり笑う。かわいい、ただいま。ずっと会いたかった。抱きしめる力を強くする。
「……ごめんね、結局寝ちゃってた」
「ん、いいよ、疲れてたっしょ」
「悠仁もお疲れさま、お風呂沸いてるから、」
「……んなあ」
「うん?」
「……これさ、おれの服だろ」
そう言うと、彼女は一瞬目をぱちくりして、そのあとすぐに赤くなった。あーあ、かわいい。
「……寂しかった?」
「………うん」
その表情を隠すように、彼女は俺の胸元に顔を埋めて、強く抱きしめ返してきた。彼女の匂いと体温に脳がくらくらする感覚がする。好きだ。
「なんでおれの服着てんの」
教えて、と背中をとんとんすると、小さな答えが帰ってきた。
「……悠仁くんの匂いすると安心するから」
かわいい。そんな理由が存在すんのか。
「……それって、いつも着てた?おれがいないとき」
「……うん」
いとおしくて、思わず髪にキスする。間違いなく、この子が世界で一番かわいい。
「……あれ」
「うん?」
「……なんか髪も身体も、いつもと違う匂いする気がすんだけど」
「あ、……これは悠仁くんのシャンプーだから」
「……え」
やばい。かわいいが振り切れている。
「……#name#ちゃん」
「ん?…ん、っ、」
前置きもせず、彼女の唇を塞いだ。彼女の匂いに混じって、自分の匂いもする。すでに混ざり合っているそれに興奮した。たぶんこんなことがなくても、風呂に入ったらすぐベッドに連れて行ってたと思うけど。でも目の前の、俺のの服を着た小さな彼女は本当にかわいくて、なんかもう、ダメだった。
「…っ、ん」
「……っはぁ、」
そのまま舌を絡めて、酸素も唾液も交換する。スウェットの下から手を入れて、やわく胸に触れた。ひさしぶりの感触に体温が上がる。背中に手を回して、そっとホックを外す。ぱら、と落ちてくるピンク色の下着。かわいい。一度その目を見つめて、胸に直に触れた。小さくその身体が跳ねる。そっと、ソファーに押し倒す。上から見下ろすと、彼女は目を潤ませて、こっちを真っ直ぐ見つめ返してくれる。俺はその視線にめちゃくちゃ弱い。かわいい。
「……ほんとに、かわいい」
しばらく服を着せたまま、ゆっくり、本当に弱い力で胸を揉んで、キスして、を繰り返す。急ぐと怖がらせる気がして、焦らないように、ゆっくり。しばらく続けていると、見つめる瞳はどんどん熱っぽくなって、俺はますます困る。かわいいから。
「……ゆ、うじ、くん」
「ん?」
「……もっと、強くして…」
小さな小さな、彼女のその声。でも聞き逃さなかった。
脳内で、パチっとスイッチが切り替わる感覚がする。
「………それは、反則よ」
着せたまま続けるつもりだったけど、もう服はどうでも良くなった。彼女の肌に触れたい、ちゃんと見たい。
一度深呼吸して、自分の服をテキトーに脱いでそのへんにぶん投げた。そして彼女の服も全部脱がせて、直接肌と肌で抱きしめ合った。
その体温と、彼女の匂いと自分の匂いをますます近くで感じて、幸せと興奮でだんだんよくわからなくなる。
「………なんか、今日は止まらんかも、ごめん」
「……ううん、だいじょうぶ」
「痛くはせんから、……なあ、おれのこと見て」
やさしく笑う彼女にキスすると、腕を回して応えてくれる。
ベッドまで運ぶのが惜しくて、俺はそのままもう一度、彼女の唇を塞いだ。

2026-09-30