彼女と暮らし始めて2回目の冬。
今年は彼女からのリクエストで、こたつを買った。白くてふわふわしたこたつ布団。
「年越しそばは?まだ食べん?」
「うん、お腹いっぱい」
彼女は隙あらばそのこたつでぬくぬくしていて、とにかくかわいい。一度入るとなかなか出てこない。よく首だけを布団から出してにこにこしている。時々、みかん取って〜と間延びした声が聞こえてくる。仰せのままに持っていくと、悠仁くんもどうぞ、とこたつに誘われる。そんなかわいい誘いはもちろん断れないので、俺もしっかり道連れになって、冬の昼間をのんびり過ごす。そんな週末も多くなった。
こたつのサイズ自体は小さくて、俺が入るとすでに窮屈になってしまうけど、それでもよかった。ぎゅうぎゅうになりながら隣り合わせで座って、中で脚を擦り合わせる。向かい合うと嬉しそうに笑ってくれるから、ついつい俺も笑ってしまう。ついでに頬に唇を押し当ててしまう。それはもう癖みたいなものだった。
「テレビ、なんかやってるっけ」
「うーん、紅白とかかなあ?」
今年最後の日だって、テキトーにチャンネルを回して流しながらだらだら過ごすのもいい。年末年始は呪術師の繁忙期ではあるけど、大晦日の夕方に任務から解放されて、こうして明日の朝まで一緒に過ごせる。去年はそうもいかなかったから、今年が一緒に過ごす初めての年越しだ。
紅白歌合戦をなんとなく流しながら、この歌手は知ってるとか知らないとか、スマホで調べて見せあったり、何もせずただぼんやり眺めたり。会話のテンポもだんだんゆっくりになっていく。いつもより時間がゆるりと流れているような気がするのは、なんでだろう。
テーブルにはみかん、湯気の立つコップ、彼女が持ち込んだ小さなお菓子たち。それだけで、なんだか懐かしい気持ちになる。なんでだろう。またぼんやり考える。たぶん、爺ちゃんと過ごした冬たちを思い出すからだ。
彼女といると、そういう幼いころの甘い思い出が蘇る。そういえばこんなことがあったと、今さら思い出すことがたくさんある。それがいつも不思議だった。
「……んなあ、」
「うん?」
「………なんもないけど、おれのこと見て」
その頰に手を当てて、そっとこちらを向かせた。見つめる瞳は透き通っていて、そこには俺だけが写っている。俺の記憶の甘い引き出しだけを開けて、辛いことは別の引き出しにそっとしまってくれるこの子のことを、ずっと大切にしたいと思った。
「……悠仁くん」
「ん」
「……恥ずかしい」
「ん、ごめんな」
一度だけ軽くキスして解放した。
静かでやわらかな夜。色んなことがあって、今年も慌しかったのに、最後の夜はこうして彼女とここにいて、かつて幼かった自分が過ごした夜と同じような時間を過ごしている。それが不思議で、じんと甘ったるい気持ちになる。
たぶん、これを幸せって言うんだろうな。
しばらく黙ってテレビを眺めていたら、こつんと彼女の頭が俺の方に寄りかかった。どうやら眠ってしまったみたいだ。
「……こたつって、すぐ眠くなるよな」
そのまま肩を貸して、手を握る。小さくてかわいい手。肩にかかる心地いい重みと体温。
失いたくない、大切にしたいと思う存在。
そういえば、かつては大切なものをあんまり多く持たないようにする癖がついていた。失ったときに辛いから。失わないかどうか、毎夜恐ろしくなるから。本能的にそういうことを避けていると、薄々自分でも気がつく時があった。そんな自分が嫌になることが多かった。
でもこの子のことは避けられなかった。俺の心の内側に置かせて欲しい。大切にさせてほしいと強く思う。好きだと伝えたら、同じ言葉で返してくれる。それが喪失の不安を解かす。生きる希望、理由みたいなものになる。
「……今年も一緒にいてくれてありがと」
来年も、その先も一緒にいたい。きっとあと三十分もしたらこの子は目が覚めて、寝てしまってたと笑うだろう。年越しそば、食べたいって言うだろうな。そうしたら、一緒にキッチンに立ちながら、さっきの言葉を直接言おう。
だから、もう少しだけ。
すぐそばにある、大好きな女の子のかわいい寝顔を眺めて、俺も少しの間目を閉じる。
良いお年を。