俺の彼女はかわいい

俺の彼女はかわいい。何をやっても、何もしなくてもかわいい。一緒にいるときはいつもかわいいし、一緒にいないときもかわいいのも知っている。
いつも笑っていてほしいと思うし、そばにいられないときも楽しく過ごしていてほしいし、でもできるだけ隣にいたい。その時間をできるだけ長くしたい。そんな自分勝手なことを、いつもずっと考えている。

その夜、彼女は飲み会に行っていて不在だった。
飲んだ日は必ず迎えに行くようにしているから、テレビをぼーっと眺めながらスマホの画面が光るのを待っていた。大抵は日付が変わる少し前に連絡が来て、最寄りの改札口で待ち合わせてコンビニに寄って、彼女の好きなアイスを買って帰る。だからそろそろ出かける準備をしようかと思っていたところだった。
「ただいま」
思いがけずガタガタと、大げさな音が玄関から聞こえてくる。その音だけで、彼女がどんな様子なのかなんとなく察した。とりあえずそこまで迎えに行く。
「……おかえり」
「あ、悠仁くん」
ただいま、と振り返って笑う彼女は頬が赤く、とても機嫌が良さそうだった。ふらふらふわふわしているその雰囲気に、かなり飲んできたのがわかる。酔っ払い姫の御帰還だった。
連絡をしなかったことを開口一番で指摘しようかと思ったけど、彼女はしゃがみこんで靴を脱ごうと格闘している。うまく脱げないようだ。横に座って、横からその靴紐をほどいた。
「飲むのにこんな難しい靴履いてったら危ないっしょ」
「…かわいいかなと思ったんだもん」
「かわいいけど」
かわいいよ、何を履いても何を着ても。いつも何してたってかわいい。酔ってにこにこしているのも、本当にかわいい。でも男もいる飲み会でその服はちょっとえっちすぎるんじゃねえの、と口から出そうになったけど我慢した。帰ってきて早々に説教すんのも、なんだかな。
「……楽しかった?」
「うん、楽しかった」
「駅から歩いて帰ってきたん?」
「うん、大丈夫だったよ」
「大丈夫でもおれは心配だから、ちゃんと連絡して、な?」
その顔を覗き込んで目を見つめる。酔って潤んだ瞳に決心がぐらつきそうになるけど、とにかく彼女が頷いてくれるのを見届けた。髪を撫でると、彼女は嬉しそうに笑う。
「悠仁くん」
「ん?」
「お水飲みたい」
「用意してあるから、リビングで飲もう、な」
「……動けないから、ここで飲む」
「こんなとこずっといたら風邪引くって、ほら」
ちなみに彼女は、わがままなところもかわいい。一度しゃがみこんだら動けなくなってしまったみたいで、仕方がないのでそのまま持ち上げてリビングまで運ぶ。軽い身体、ふと香る彼女の香り、あと酒と煙草の匂い。
飲み会に行くということはそういう匂いに囲まれて過ごすということで、理解はしているけれど嬉しくはない。そういうところに行けないように閉じ込めておけたらいいのにと思うけれど、それは彼女にとって幸せではないことはわかっているから実行しない。
「あ、お尻触った」
「運んでんだからそんくらい許して」
文句を言う割には楽しそうで、心配かけられたのは多少もやもやするのにその笑い声を聞くと許してしまう。つくづく彼女に甘いと思うけれど、しゃーない。俺が好きでやってるから。
「ほら、ゆっくり飲みな」
ソファーに座らせて、俺も隣に腰掛ける。その背中をさすりながら、飲み干すまでを気長に見届けて、ここからどうしようかと考える。目の前の彼女はもうすでに眠そうで、今にもまぶたがくっつきそうなくらいだ。この無防備な彼女をどうするか、色々選択肢は思いつくけど、一旦えろいやつは除外した。
「とりあえず着替えんと、服シワになる」
「うん…」
「ちょい待ってて」
部屋着に着替えさせようと、寝室に行き、彼女の衣装ケースを開ける。
「……おわ、?!」
その瞬間不意に目に飛び込んでくるレース、紐、白、ピンク、水色。……完全に油断した。容易に開けていい場所じゃなかった。心臓が持たん。黙ってそっと閉じて、仕方がないので自分のTシャツを引っ張り出す。サイズは絶対に合わないけど彼女の服や下着をこれ以上漁って地雷を踏むよりいい、多分。トラップすぎる。
「ほら起きて、おれ手伝うから」
寝室でもだもだやっている間に、彼女は眠ってしまっていた。寝顔だってかわいい。声をかけ、起き上がらせる。もうすでに夢の中だった彼女は隙だらけでかわいくて、なんというか、さっき除外したはずの選択肢とか、今日は無理せず寝かせるという決心がすぐ揺らぐ。
「ん、ばんざいして」
「……うん」
両手を挙げさせて、ブラウスを脱がせる。目の前にぷるんとふたつの柔らかいそれが現れて、わかっていたはずなのに心臓がバクバクしてくる。今日は無理せず寝かせるって、決めたろ。頭の中で何度も繰り返す。白くて柔い肌、ピンクのレースの下着。見なければいいのはわかっていても目はそらせなくて、こんなに見てたら普段の彼女になら怒られるけど、その本人は半分寝ぼけていて何も言わない。
「………はあ、」
ぐっと我慢して俺のTシャツをかぶせた。それでとりあえずひと段落したと思った、のに。
「スカートも脱ぐ…」
「…ちょ、待って」
彼女は寝ぼけ眼のままゆっくりスカートのファスナーを下ろしていく。止めたいようなそのまま見ていたいような、いやそもそも寝るならシワになるし脱いだ方がいいんだから止める必要はないけど、このまま見てるとよくないような、見ていたいような、いや、絶対よくない。
「待って、下履くもん持ってくるん忘れたから、」
とりあえずこの場にいるのは俺の心臓とか理性がまずい。そう思って急いで離れようとしたのに、眠気が限界になった彼女が倒れ込み、俺の膝の上で寝始めてしまった。
「………どういう状況?」
すやすやと寝息を立てて眠る彼女。俺のTシャツを被って、あとは下着だけ。裾から覗く太もも、すらりと伸ばされた脚。かわいい。ご褒美なのか生殺しなのかわからん。いや、どっちかというと生殺し。でも、やっぱり無理に起こす気にはなれなくて、そのかわいい寝顔をしばらく眺めることにした。そっと慎重に、頰に触れる。
まだ少し熱を持っているそこは柔らかくて。本当は連絡せずに夜道を一人で歩いたことも、飲みすぎたことだって怒りたかったのに、ただ帰ってきてくれるだけで、こうして隣にいてくれるだけで、かわいい寝顔を見せてくれるだけで、そういうもやもやはどうでもよくなってしまう。明日怒ろう、と思ってはみるものの、たぶん顔を見て、抱きしめたら許してしまうだろうな。
「……こんな無防備な姿、おれ以外に見せんでよ」

俺の彼女はかわいい。何をやっても、何もしなくてもかわいい。一緒にいるときはいつもかわいいし、一緒にいないときもかわいいのも知っている。
いつも笑っていてほしいと思うし、そばにいられないときも楽しく過ごしていてほしい。
でもやっぱり、ずっと隣にいてほしくて、離したくなくて、俺の隣が一番だって笑って、好きだと言ってほしい。
そんなことを考えていたら、寝言で名前を呼ばれたので好きすぎてしぬかとおもった。

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2026-02-09