「虎杖くん、ちょっと付き合える?」
隣の部署のお姉様2人に呼び出され、なぜか俺は居酒屋にいる。飲み会の席で話したり、たまに仕事で関わることはあるけど、突然こんな風に呼ばれる関係性じゃないはずだった。
……俺、なんかしたっけ?
「そんな怯えた顔しないで。別に説教しようってわけじゃないから」
「はい、とりあえずビール」
「……いや、逆に怖いんすけど」
ジョッキを持たされ、とりあえず乾杯した。なんなんだ、心当たりが全くない。すごい厄介な案件の依頼とか、合コンの人数合わせの参加依頼とか、そういうの?邪推しまくる俺を尻目に、お姉様たちはぐいぐいビールを飲み干し、ドン、と音を立ててテーブルに置いた。促されて俺も飲み干す羽目になった。すぐに2杯目が運ばれてくる。ますます怖えよ。
少しの沈黙。そしてようやく、右側のお姉様が口を開いた。
「あのね、虎杖くん」
「……はい」
「虎杖くんさ」
「?はい」
「………#name#ちゃんのこと好きでしょ?」
「………………え、」
予想外すぎた。
いきなり先輩の名前が出てきて脳がフリーズする。なんで?そういえばこの2人、彼女の同期だっけ。いや重要なのはそこじゃない。なんでバレてんだ、ってことだ。これは、なんて返事するんが正解なんだ。突然後ろから思いっきり殴られたみたいな衝撃に、何もうまく返せない。口に含んだままだったビールを、とりあえず流し込む。
「やっぱり、当たりだよね?」
「虎杖くん固まっちゃったよ」
「ごめん、いきなりすぎた」
もうだめだ、否定しても意味がない。認めたことになっている。いや図星、ではあるんだけど。もうそれがわかったら今度は恥ずかしくなって、カッと顔に熱が集まる。これは酒のせいじゃない。なんなんだ、この状況は。
「………そうですけど、俺誰にも言ってないっすよ」
「でもよく見てたらわかるよ」
「うん、わかる。#name#ちゃんの前でだけ全然喋んないし」
「え、え」
「たまに話してる表情でわかるよ、普通に」
「……ちょ、っと待ってもらっていい?」
誰にも話してこなかった、打ち明ける気がなかった彼女への気持ち。叶える気もなかったからバレたくなかったのに、え、そんなにわかりやすい、俺?
「大丈夫、本人も気づいてないし、他の人も知らないよ」
「わたしたちだけだよ」
「……お姉様たちは何者なん……」
「で、付き合わないの?」
「あの子いまフリーだよ」
矢継ぎ早にもたらされる情報に混乱する。彼氏いないのか、と喜んでしまったのが悔しい。そういうのを知ると色々余計なことを考えてしまうから、知らないようにしてたのに。
「……別に付き合いたいとか、そういうのはないんで」
「ええ?!なんで」
「………いやー…まあ、なんとなく」
別に詳しく説明するつもりはなかった。彼女には幸せになってほしい。いつも笑っていてほしい。自分がそうできるかどうかに自信がないだけで。
「部署一のモテ男がなに言ってんの」
「なんすかそれ」
「営業部の虎」
「変なあだ名つけんでよ」
「で、いつから好きなの?」
「………え、っと」
「…………え、入社したときから?」
お姉様方、怖い。俺の表情から全部読み取ってくる。なんも隠せない。
「え、ってことはもう2年以上ってこと?何やってんのあんた」
「いや、だから俺は、」
「とりあえず飲も、セッティングするから」
「大丈夫ですって、もう……」
「なんでよ」
「…………いや、恥ずかしいんで……」
正直に答えたのに、お姉様はそれはそれはめちゃくちゃ嬉しそうに笑って、スマホを取り出して何やら連絡を取り始めた。もうダメだ。この人たち、止められん。全然人の話聞いてねえ。
「大丈夫、すぐ予定決めるから。とりあえずそれに合わせてくれる?」
「まあ虎杖くんなら安心して推薦できるわ」
「……いや、なんすかそれ」
「#name#ちゃん本当にいい子だから」
そんなん、とっくに知ってるよ。思わずテーブルにジョッキを下ろしてしまった。そんなこと、ずっと知ってる。かわいくて、綺麗で、素敵な人だ。だから幸せになってほしい。別に幸せにするのは俺じゃなくていい。ちゃんとそう、思ってる。
「そんなこと知ってますよって顔してる」
「お、惚気か?」
「いちいち俺の顔読み取るんやめてくれん?!」
俺一人では暴走するお姉様を止められるはずもなく。どんどんジョッキは空になり、次々と新しい泡が運ばれてくる。どんだけ飲むんだよ。
「まあ夜は長いからさ、色々聞かせてよ」
「……勘弁してくださいよマジで」
その後も怒涛の質問攻めにあい、俺は久しぶりに酔った。