店を出る頃、まだ雨は静かに降り続けていた。
1本しかない傘はふたり入るには少し狭いけれど、俺が濡れるのは構わない。お酒でほんのり顔を赤くした彼女を抱き寄せて傘の下に入れる。
「じゃあ、また飲もう」
「おう」
「#surname#さんも、来てくれてありがとう」
近いうちの再会を約束して、傘のない4人は駅まで足早に駆けていった。その背中を見送りながら、歩幅を合わせてゆっくりと歩く。水たまりにネオンサインが反射して街全体が眩しかった。
「緊張した?」
「……うん、ちょっとだけ」
「ごめんな、無理してたよな」
「ううん、すごく楽しかったよ。いい友達がたくさんいるなって、わたしもうれしかった」
そう言ってにこにこ笑ってくれたから安心した。人見知りなのは知っているから。
「それにね」
「ん?」
「一目惚れの話も、知れてうれしかったな」
「あ、あれね…」
一番恥ずかしかったことが話題に出て、思わず言葉に詰まる。好きになったときの話はなんとなくは伝えていたけど、詳細は言っていなかったのだ。だって恥ずかしいから。猪野さんにはしつこく聞かれて教えてしまったけど。
「一目惚れ、ほんとだったんだね」
「え、嘘だと思ってたん?」
「だってそんな感じしなかった、当時」
「そりゃわからんようにしてたんよ、必死に」
今でもはっきり覚えている。時々夢も見る。教室に入ってきた姿を見たとき、ほんとに風が吹いたみたいだった、のだ。自分の周りだけ。かわいいと思ったし、この子は俺が守ったほうがいいんじゃないかとか、今より断然非力だったくせに思ったりもして、でも何も言えなくて、ただいつもそばにいた。
「教えてくれてありがとう」
こちらに向けられる笑顔にドキドキする。もう付き合って5年以上経つのに、こうやって隣にいると心臓がぎゅっとなって、緊張する。これまでと同じように、ずっとそばにいたいし、好きでいたいし、好きでいてほしい。繋いだ手を強く握ると、優しい力で返してくれた。
「雨、電車乗ってる間に止むかな」
「んー、止まんかも、コンビニ寄りたい?」
「うん」
アイス、とふたり同時に声が出た。思わず顔を見合わせて笑う。ちゃんとわかってる。ハーゲンダッツね。うん。嬉しそうに頷く顔が見れて俺も嬉しい。
一緒にいるときもいないときも、俺はこの子が大好きだ。その手をもう一度、強く握る。