この仕事の難点は、出張が多いこと、いつ帰れるか事前にははっきりわからないこと、そして電波が届かないことが多い、ということだ。
今回もそうだった。案件を複数はしごして、やっと帰れると思ったら交通手段がなくなって(過疎地の任務、大雨で道路が封鎖されてしまった)、帰宅を2回も延期した。さすがに疲れている。身体が重い。何より、電波が入らない場所での任務が多すぎて(そもそも帳の中は圏外だ)、彼女に連絡がほとんどできていない。
声が聞きたい、話がしたい。
12日目。とうとう限界を迎えて、待機中に車を抜け出して電話をかけた。
かけてから、今が夜中の1時だと気がついた。
「………もしもし、…悠仁くん?」
眠そうな声が聞こえてくる。かわいい。
「ごめん、起こして」
「ううん、……ひさしぶりでうれしい。どうしたの?」
「……んー、会いたい、もう無理、って思って。なんか限界で」
「だいじょうぶ?……帰ってこれそう?」
「いや、まだ無理。色々ややこしいことになってて。ごめん」
「……そっか、寂しいね」
「そろそろ#name#ちゃん不足でおれしぬかも」
「しんじゃったら会えないよ」
「……うん」
「怪我してない?」
「ん、大丈夫。ちゃんと治してるし」
「よかった、……東京はね、今日はすごい雨だったよ」
「そっか、頭痛くなってねえ?」
「うん。ちゃんと薬飲んだよ」
「そっか、……うん、よかった」
「……悠仁くん、元気ないね」
「……声聞いたらさ、余計に寂しくなった。すげえ会いたい」
「……うん、わたしも」
「あー……、会いたい」
「……ねえ、悠仁くん」
「ん?」
「……もしかしたら、頑張って帰ってきたらえっちな下着の彼女がいるかも、しれないよ」
「え」
「悠仁くんの好きな、紐だけの、やつ」
「……まじ?」
「うん。元気出た?」
「出た、すげ一出た」
「頑張れそう?」
「頑張る、めちゃくちゃ頑張る」
「ふふ、よかった」
「……おれ単純すぎ?」
「……うん。でも、頑張ってえらいよ」
「はは、ありがと。……好きだよ」
「うん、わたしも好き」
「ん、……じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
帰ったら、世界でいちばんかわいいものが見られることが確定した。
口角が上がるのを抑えられなくて、フードで顔を隠しながら車に戻る。運転席の補助監督が、振り返った。
「おかえりなさい。どうかされました?」
「……いや、ちょっと個人的な電話。状況どう?」
「まだ合図が来ていないです。もうしばらく待機ですね」
「ん、そっか。りょーかい」
「………虎杖さん、何かいいことありました?」
「ん?なんで」
「いえ、にこにこされているので……」
「はは、そう?」